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「え…」
急なあだ名呼びに怯んだまきだが、何か思い出して怯えるように反応する。
「……坂本くん?」
「やっぱりまっきーだ、久しぶり!こんなところで何してんの」
そりゃ野球を見に来ているんだろ、とゆいなは思ったが言葉には出さない。
「まさかこんなところで会えるとはな。そうだ前に連絡先変えられたじゃんか、だから連絡できなくてさ。また教えてよ、LINEとかさ」
なんだか良くない交友関係な気がしてくる。
「教える気なんてないから」
「なんだよ、また仲良くやろうぜ、一緒にまた旅行でも行こ」
馴れ馴れしくまきの肩を触りながらその男は言う。まきは何かを訴えるような目をしながらゆいなを横目で見る。
「もうそんなところ行かないから。それに私は今少し黙ってと言ってるの!」
「なんだよ、そんな怒るとかわいい顔が台無しだぜ」
そう言いながらまきの小さな頭を撫でようとする。その手を察してまきが振りほどく。
「そういうのいいから!」
珍しくまきが声を荒げた。それと同時に周囲の目線を引き付けてしまった。それに気づいたまきが焦りの表情を見せたタイミングで、その男の隣にいた女が声を出す。
「何この女?元カノ?」
その言葉に今度は坂本くんと呼ばれていた男が焦りの表情を浮かべる。
「あ、まあそんなところかな……、でも留美のちゃんの方がもちろん可愛いぜ」
塁間で挟まれたランナーのように、あっちにこっちに忙しい男だ。
おそらくまきとは元カノのような関係で、今はその留美という女性と仲が良いのだろう。
まきの元カレか……ゆいなが不思議な感情で坂本を眺めると、まきが慌てて弁護に入る。
「あの、そういう関係とかじゃないですからね。大学の時に少し仲良かっただけで……」
仲が良いというのは彼氏なのではないかと思うが違うのだろうか。
すると今度は、坂本とは別の男がしゃしゃり出る。
「坂本の知り合いなら一緒に飲もうぜー。ほら、横の席空いてるしさ!」
今度は留美とは別の女が声を出す。
「えー、私がいるじゃん?」
「ほら、人が多い方が盛り上がるだろ?」
「でも性格悪そうな顔してるよ?」
「まっきーはそんな子じゃないから」
非常にうるさい。もう誰が何を話しているのかわからないくらいに邪魔に思えてくる。
そしてまきも嫌がっているようなので、こういう時にばしっと何か言えたら良いのだが……。
それが出来たら苦労しないか。
「俺野球詳しいよ、教えてあげようか」
「結構です」
強気なまきはスコアに向き直る。
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