第四章 乱打戦

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 いつの間にかにランナーが一塁に出ている。ボール先行だったので四球だろうか。憶測で考えるしかない。今日も完璧なスコアは書けなさそうだ。  バッターはバントの構えをする。 その構えのままボールをバットに当てたが小フライで一塁側に打球が飛ぶ。すると打球を取りに行ったキャッチャーとバッターランナーが衝突した。  審判の大きなジェスチャーと共に、二塁に進みかけていた一塁ランナーは一塁に戻る。 「なんでランナー進まないんだよ」 「野球のルール知らねえんじゃないの」 「だから一軍に上がれないんだよな」 「俺の方が野球上手いな!」  坂本率いる四人組が大きな声で笑いだす。  すると、まきは何か確認するような目でゆいなを見つめる。  そのままの表情でスコアシートの余白に「IP2?」と書く。ゆいなは合ってるよという表情で首を縦に振る。  何かを決心したような目でまきは坂本に声を荒げる。 「これは守備妨害です!バッターランナーはその場でアウトになって、ランナーは元の塁に戻されます。あなたこそ野球知らないんじゃないですか?間違ったことで一生懸命プレーしている選手達をけなすの止めてください。不快です!」  逆転のピンチを背負ったピッチャーのような目を一瞬した坂本だが、強めの口調でまきに詰め寄る。 「は?だからなんだよ?」  だからまきはあなたより野球詳しいのですよとゆいなは心の中で呟く。 「あなた達は私のスコア妨害をしています。スポーツだって妨害したらペナルティを受けるんですよ?あなた達も反省して静かにするか退場してくれませんか?」 「は?お前調子乗ってんのか?」  坂本がまきの手を掴んで立ち上がる。さすがに力では小柄なまきに勝ち目はない。 「ちょっと放して……」  まきは痛さと恐怖で涙目になりつつある。  こういう時に私に力があれば止められるのだがそんなものは持っていない。  それなら近くのスタッフを探そうと視界を彷徨わせると後ろから低い声が聞こえた。 「お前らのせいで見えなかったんだけど」  グラウンドでは一塁ランナーが盗塁をしたようだ。しかしキャッチャーの強肩によりアウトになった。  スコア上では、キャッチャーからショートに送球してタッチアウトにしたため、26STOと書く。SはスチールでTOはタッチアウトだ。  頭の中でスコアを描くが今はそれどころではなかった。注意した低い声の主を見ようと振り返ると、見覚えのある強面が目に飛び込んできた。  ポンセ!
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