第四章 乱打戦

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「さっきからお前らうるせえんだよ、ここはビアガーデンじゃねんだ。お前らはビールついでに野球見てんのかもしれねえが、俺らは野球を見たくてここに来てんだよ。 野球を見ない常識のないファンなら帰ってくれないか」  ビアガーデンという単語はまきが言ったものだ。そこから話を聞いていたのか? 「んだよ」  三塁ランナーを目で殺すようなポンセの視線に、さすがの坂本ら四人組もホームに突入はできないようだ。 まきの腕を掴んだ手を引っ込めて席に座りだした。それに周りのファン達も、よく言ってくれたといわんばかりの目線を向けている。坂本から見れば完全アウェーの環境だ。 「大丈夫?」  ゆいなはまきに声をかける。 「はい、なんとか。ゆいなさんが横にいると思って踏ん張れました」  まきは助っ人にも振り返って声をかける。 「すみません、ありがとうございます、助かりました……あっ、ポンセ!」  ポンセはど真ん中を見送ってしまったような意表を突かれた目つきになる。 「あ、これね、ユニフォーム。俺がベイスターズファンになった時の選手でね。豪快なスイングする選手が好きでさ……」  さっきまでの強面はどこへやら、優しそうな恥ずかしそうな目で答える。 「私正直いうとポンセ選手のこと全く知らないんですけど、たぶんお兄さんみたいに優しいバッターだったのでしょうね」  優しいバッターという表現は正しいのかはわからないが、まきの目の前のポンセはとても優しい目をしている。 「……ほら、スコア書かなくて良いのか?」 「あ、そうでした!ポンセ選手ありがとうございました。ゆいなさん、今どういう状況ですか?」  この人はポンセ選手ではなくてその選手のファンだけどね。まあ呼び方は何でも良いか。  ゆいなはここまでの状況を記憶と考察で伝える。  私も強そうな外国人選手のユニフォームを着ようかな。そしたらあの人のように注意できるかもしれない。そういう問題ではないか。  ゆいなは展開が落ちついた安堵から別の思いを駆け巡らせてしまったが、スコアに気持ちを戻す。  ここからはスコアに集中して野球をじっくり平和に楽しむことが出来そうだ。
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