第四章 乱打戦

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 試合は終盤、ベイスターズの打線爆発で大きく点差が開いている。  時折少し小さくなった坂本が振り返ってスコアを覗いてくる。  スコアなんて意味あるの?と未だに余計な小言を挟んでくるが、まきは適当にあしらっている。 「中山だ、ホームランに期待ですねー」  いつものまきが帰ってきた気がする。それに加えて今日は野球知識を前面に出してくる。  坂本に俺の方が野球詳しいと言われたのが嫌だったのだろう、負けず嫌いなまきの気持ちが言葉にも含まれているように感じる。  それ以外はきらきらした目でスコアと選手を見つめるいつもの新人スコアラーだ。  いや、もう立派にスコアを書けているので新人ではないな。  点差は離されているが、若手の投手が二死一、三塁のピンチを背負っている。打たれても無失点でベンチに戻るのと、点を取られるのでは雲泥の差なので見る側にも力が入る。  若手の投手が渾身のストレートをベイスターズの四番打者に投げ込む。  振りぬいた打球はふわっと三塁ファールゾーンへ飛ぶ。ツーアウトなので投手はベンチに戻りかけたが、サードがファールフライを落球してしまった。  ゆいなとまきが同時にスコアボードに目をやる。判定は……エラーだ。 「ここからはある意味チャンスタイムですね」  まきがスマホ片手に不敵な笑みを浮かべながらゆいなに話しかける。一瞬理解に遅れたが、自責点の話をしているのだろう。 「ここから何点取られてもこの投手の成績は悪くならないということね」 「そうです。この前勉強しましたー」  局面はツーアウトで、ファールボールを問題なく取っていればスリーアウトでチェンジのはずだった。だがそれを落球してしまったためチェンジにはならなかった。  投手の責任ではスリーアウト取れている想定になるので、打ち直しで今から打たれて点を取られても投手の成績は落ちない。  失点は記録されるが、防御率に関わる自責点は増えない。ましてやここから10点取られたとしても投手の自責点は0になり、ノーダメージになる。  それをまきはチャンスタイムと呼んでいるのだろう。  ただ、ここから点を取られると失点は増えてチームへの印象は悪くなるので、もちろん再度抑えるのが一番良いが。  仕切り直しの次の球を四番打者は綺麗に振り抜いていった。打球はライト前へ落ちて更に一点追加。一塁ランナーも三塁へ進んだ。 「でも自責点は付きませんね」  自責点でのランナー生還の時にはスコアシート中央のひし形の中に赤丸を書き塗りつぶす。  一方自責ではなく失点の場合は赤丸は書くが塗りつぶさない。このようにスコア上の見分けを付けている。
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