第二章 交流戦

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「ゆいなさんって野球好きなんですか?」  会社の1つ後輩、田中茉希(たなかまき)が話しかけてきた。私が勤める会社の昼休みのことである。    まきは背が小さくて愛嬌があって男性社員から一目置かれている系な女子である。    私は入社3年目の松岡結菜(まつおかゆいな)。後輩のまきとは住む世界が違うというか、何かこうキラキラしていない。    そもそも会社の飲み会とかはあまり好きではないし、恋人もずっといない。というかそんな時間がそもそもない。  なぜならその時間を使って野球観戦に行きたいからだ。    二軍の試合は平日でもデイゲームのことがほとんどだ。土日休みの私にとっては休日しか行ける時間はない。    金曜日が終われば早くスコアブック持って野球場に行きたいなと考えてしまう。  とはいえ一軍の試合も平日の仕事帰りに行くことはできるので、毎日スコアを書くチャンスはあるわけだが。   「私、野球好きなんですよ。先月も東京ドームに行ってきたんです。好きだったら今度一緒に行きましょうよー」  まきは男性社員に人気があるからその中の誰かの影響だろうな。  東京ドームに行った話も男とだろう。おそらく営業部か人事部。    この考察からするに、私には社交辞令的に言っている。本気で行こうとは思っていない。男性社員が一緒なら話は変わりそうだが……。 「野球好きだよ。先週も行ってきたし、今週も行くつもり」 「え、すごーい!そんなに行くんですか!今週も行くんだったら連れていってくださーい!」 メジャーリーグでお馴染みの曲が脳内を駆け巡る。野球場に連れて行ってくれだと?しかも私と二人で野球場に?  そうか。私が一人で野球場に行っていると思っていないのか。しかも軸はスコアを書くことということも知らずに。  ゆいなはこの考察に自信を持ちながら、やんわりと相手を傷つけないように切り出す。 「でも私はいつも一人で行ってるし、まきちゃんが思っているような観戦はしてないよ?それに私は誰かと話しながら野球見るの苦手だし」 「ストイックですね!」  私はストイックだったのか?そんなこと一度も考えたことなかったが。  ただ、スコアを書いていると他のことを考えている余裕がないので、とても野球に集中している。ということは野球と常に向き合っている。そういう意味では外からみたらストイックなのかな。 「実は私、野球を好きになったの最近で、ルールも正直微妙なところでして。なのでストイックに野球を見ているゆいなさんと観戦して勉強させて頂きたいなと…!」  私の心は汚れていたのかもしれない。真の目的は男と野球を見に行くためかもしれないが、野球を勉強しようという気持ちで話しかけてきていたとは。まきのことをみくびっていたよ。 「んー、まあ一緒に見に行っても良いよ?だけどまきちゃんに楽しんでもらえるような事はできないけど。それで良ければ」 「ぜひ……!先輩、よろしくお願いします!」
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