第二章 交流戦

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「あの、こんな所に野球場あるんですか……」  日曜日、武蔵浦和駅から出るバスに私とまきは揺られている。今日は天気も良くて野球観戦日和だ。少し風が強いが爽やかでこれもまた良いだろう。  バスが進むに連れてのどかな風景が広がってくる。 車内はユニフォーム姿の意気揚々としたファンがぎっしり詰まっている……わけではなく、交通の足としてご老人も乗っているようなごく普通のバスである。 「次の駅だよ。言い忘れてたけど、バス停降りたところのコンビニを最後に、球場まで何か買う場所ないからね。そこで食べ物とか買っていこう」 「場内にはありますよね……?」 「自動販売機とたまにケバブの車が来てる時があるよ。そのくらいかな」 「……」  私は二軍の試合だけど良い?と聞いたはずである。  まきはあまりピンときていなかったようだが週末は巨人戦だよというと、目を輝かせて「行く!」と言ったのである。  ただそれ以上の情報は集合場所の駅と時間を教えただけだったので、もう少し注意しておくべきだったのかな。    東京ドームのように4万人ものファンが詰めかけ、大音量の太鼓やトランペット、球場を賑わせるようなアナウンス、ビールの売り子、そんないわゆる華があるような一軍の球場をまきは想像していたのかもしれない。  しかし今から行く二軍の戸田球場は、トランペットもなければ売り子もいない。ウグイス嬢はいるが、派手な演出はない。あるのは土手と数百人しか収容できない球場である。 「嘘ですよね。こんな田舎みたいなところで野球やるんですか?」  戸田球場前の土手を上がりながらまきが声を漏らす。  確かに小鳥のさえずりがしっかりと聞こえるようなこの場所に、野球場があることが一軍経験者には不思議なのかもしれない。  左右に草が生い茂る土手の上を歩くとそろそろ野球場が見えてくる。 「ほら、野球場見えてきたよ」 「本当にあった…」  伝説の場所を見つけたかのような言葉を発しているが、ここが私の好きな野球場なのである。
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