第二章 交流戦

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 野球場の好きな風景はどんな所ですかと聞かれると、球場のコンコースの階段を上がり視界が開けると、広大な緑の芝生と「カキーン!」という打球音。  ファンがぎっしり詰まった非日常の光景を見て、野球場に来たぞ!という雰囲気が味わえるあの瞬間を挙げる人も多いだろう。  それを二軍でもまきに味わせてあげたかった。本当は土手を下って少し遠回りすれば整備された道を通って球場に行けるのだが、この風景を感じることはできない。 「うわ、こんなところ降りるんですか」  土手から降りる場所に整備された階段はなく、滑りそうな石を階段にして降りていく。 「動きやすい靴にして来れば良かったな……」  何度も滑りそうになって、最終的には勢い余って駆け降りて行ってしまったまきが呟く。  手書きのチケットを買って私のお気に入りの二階バックネット裏の一番後ろの席に向かう。するとまきが声を上げた。 「近っ!目の前に選手いるじゃん!」  二軍球場の良さの一つとして選手とファンの距離が近いことがあるだろう。一軍では試合前の選手に会うことは難しい球場が多いが、二軍では目の前で練習していることも多い。  特に戸田球場では敷地がそこまで広くないので、移動中の選手が目の前を通ったり、練習の合間にサインをくれたりといったファンサービスにも多く遭遇する。  カメラを持った女性ファンも多く、一軍とはまた違った楽しみ方ができる。 「一軍ではこんな近くで野球見れないものね。料金も千円代だし、バックネット裏とかは東京ドームだったらプレミアチケットだよ」  ここまで球場があることさえも疑い、声のトーンが落ちてきていたまきだが、ここにきてテンションがいつも男性社員と喋っている時と同じくらいになった。私も少しほっとした。
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