第二章 交流戦

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 スターティングオーダー発表までの間、球場内を歩き回り、選手を間近に見ることができたまきが席に座り興奮気味に話してくる。 「あの選手かっこよすぎませんか!?ファンになりそう!」  女性ファンを取り入れるにはまずこういうとこからなのだろうな。もしかしたらスワローズファンになってくれるかもしれないと悪巧みしていると、スターティングオーダー発表の時間になった。 「あと、あの選手の手の大きさ見ました!?私なんてこんな」 「ごめん。少し集中させて」  まきの声を遮ると、膝上にスコアシートを開き、4色ボールペンと修正ペンを並べる。  1番打者から順番に発表される名前と守備位置を、スコアシートに書いていかなければならない。  あとで書く時間もあるんだけど私はこの瞬間に書きたいのです。  両軍のデータを記して、今日の審判員の名前を書きながらゆいなの声が漏れる。 「今日の球審永川さんだ」 「審判までですか!?」  選手の名前さえ覚えていないまきにとっては、審判の名前など耳にも入っていなかったかもしれない。  とはいえ私もそこまで審判員さんには詳しくないんですけどね、という気持ちを胸にしまい基本データを書き込む。 「あのー、ずっと真剣に書いていたので聞けなかったんですが、それは何を書いているんですか」 「スコアだよ。野球の記録を書いていくの。たとえば前の試合だとこんな感じで」  さすがにスコアの付け方まで教えると、野球観戦ルーキーまきの頭がパンクしそうなので、表面だけをさらりと教える。 「なんか見たことあります。高校野球とかでマネージャーが書いていそうな」 「そうそうそんな感じ。私は学生時代帰宅部だったからそういう経験ないけど。後から見返しても詳細に試合展開がわかるんだよ。これさえあればどんな試合も再現できる」 「へえ。なんか頭良くないとできなさそうですね」 「そんなことはないと思うよ。基礎的なところを覚えればあとはそれになぞるだけ。ただ野球のルールや専門用語などを分かってないと難しいけど」  特に瞬時に守備位置の数字が出ないと、次の打席に間に合わなくなるかもしれない。  ゴロをセカンドが取ってショートに投げる。ショートが2塁ベースを踏んでファーストに送球してのダブルプレーを数字に表すと、4-6-3になる。 ボールが渡った守備位置の数字を並べるだけなのだが、セカンドが4でショートが……と考えていると時間が経過してしまうこともある。  また、ファーストがゴロを取ってそのままベースを踏んでアウトにしたら1Aと書いたり、この打球はエラーでの進塁なのかの判断ができないと、私でもスコアシートがぐちゃぐちゃになることもある。  まずまきの場合は、野球のルールを覚えるところからなのだろうな。
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