第二章 交流戦

6/9

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
 野球の基礎ルールを改めて教えていると永川球審からプレイボールの声がかかった。 「1回表ジャイアンツの攻撃は、1番ライト立岡」  ウグイスコールと共に私は1イニング目のスコアマスにペンを置く。  初球は見逃しのストライクとなったので白丸をマス目の左側にあるボールカウントのマスに書き込む。 「あれ、この立岡って選手知ってますよ?この前東京ドームで見たような気がします」  2球目はボール。黒丸を書き込む。 「二軍って若い選手がたくさんいるところなんじゃないんですか?」  3球目はファール。横線を書き込む。 「でもこの前は良いところで打てなかった気がします。友人が選手の名前叫んでがっかりしてたんですよ。だから二軍にいるんですか?」  4球目はボール。黒丸を書き込む。 「あの、ゆいなさん?」  5球目。角の外角の球を捉えた打球は三遊間を抜けてレフト前ヒットになった。 「ゆいなさん!打ちましたよ!打球の音が凄く……」 「ちょっと待って!」  すかさずペンの色を赤に変え、レフト前ヒットなので7、シングルヒットなのでマスに描かれているベースに見立ててあるひし形に線を引く。  今回はバッターボックスがあるホームから一塁に走者が動いたことになるので、ひし形の右下の辺に線を引く。 「いいよ、なに?」 「…えっと、打球の音が凄かったですねって言おうとしました」 「そうね」  次の打者がバッターボックスに入り構えようとしている。2番打者のマスにペン先を合わせる。  するとまきが堪らず声を上げた。 「ゆいなさん!いつ話しかけたら良いですか!」  黒丸をスコアに書こうとしてまきに手を捕まれた。  私は一人以外でスコアを書いたことがない。野球観戦自体は誰かと行った経験はあるが、父親に連れられて行った昔の数回だけである。  そうだ、思い出した。  誰かと野球を見るってこんな感じだったな。  誰かと野球を見るってこんなスコア書きにくいんだな……。 「まきちゃんごめん、スコアに集中しすぎてた。今日はまきちゃんが野球に詳しくなるために来たんだものね」  スコアを書くのに真剣になりすぎることない。いつの間にかにピッチャーが3球投げている。  投げた順番はわからないがスクリーンのカウントを見れば、スコアの補正をすることはできる。  完璧なスコアを書こうとするよりも、今日は友達と一緒にする野球観戦というものを楽しんでみよう。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加