ある羇旅

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 青い空に眩しい雲が流れているのを見上げた時、里美さんのベッドのブザーが鳴りました。 麻衣さんの旦那さんは麻衣さんの肩に静かに触れて、すぐに看護師さんとお医者さんを呼びました。 麻衣さんは里美さんの手を、しっかりと握り続けていました。 本当に、ただ眠っているだけのようでした。 数日後に訪れた里美さんのお部屋は意外にもすっきりと片付いて、 お気に入りのソファの傍に『麻衣ちゃんと双子のちびちゃん達へ』と書かれた段ボールが置いてあったのです。 「ママのお腹にあなた達がいることがわかったのはね、それよりずっと後だったの。不思議でしょう?」 「おばあちゃんすごいね」 「おばあちゃん‥‥‥魔女だったの?」 一生懸命フォークを使いながら、男の子がちょっと声を(ひそ)めます。 「ううん、普通のどこにでもいるおばあちゃんよ」 段ボールの中には、麻衣さん達にあてた1通のお手紙。 そして、たくさんの里美さんの描いた絵本と、他の人のおすすめ絵本が入っていました。   麻衣さん達は今、里美さんのお家で暮らしています。 小さいけれど、とても素敵なマンションです。 ベランダからは駅が見えます。 電車が入って来るところや、駅からお家に帰る人達が降りてくる階段も見えます。 駅の前には円を描くようにバスやタクシー乗り場があって、その真ん中には時計台があります。 周りのお店やコンビニには、クリスマスとお正月に優しくイルミネーションが灯るのでした。 「夢見ていたお家を見つけたの!」 里美さんが突然お引越しをしたと電話をかけてきて、麻衣さんがあわててここに駆け付けたのはもう何年も前のこと。 「ね? ミュージカルの舞台みたいでしょう!!」 窓の外を見ながら嬉しそうに語った里美さんの顔が、今も心に浮かびます。 「お母さんたら、まるでいつもの取材旅行に行くみたいに‥‥‥」 さっきの夢のことを考えながら、麻衣さんはナポリタンを食べました。 「お母さんのこと、よろしくお願いします」 里美さんのお仕事仲間に石田さんと言う青年はいません。 なのに、夢では当たり前のように、昔からとてもよく知っている人でした。 「おまかせください」 気持ちの良い笑顔で、彼はそう答えました。 「石田さんが付いているなら安心ね」 なぜかそう思えるのでした。 「ごちそうさま。さぁお皿を運びましょう」 3人でお皿を片付けます。 「ご本を読んだら今度はあなた達がお昼寝よ」 「パパが帰ったら起こしてね」 「そんなに寝ちゃうの?」 3人で笑いました。 パパが駅の階段から降りてくるのを、子供達はいつも楽しみにしています。 子供達の枕元に腰かけて、麻衣さんは今日も里美さんの絵本を開くのでした。              (END)
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