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「石田さ~ん!今度こそ終わったわ~!!」
これでもう3度目の終了宣言なので、里美さんはよく考えてから彼を呼びました。あれも取っておきたいこれも捨てたくない。本当に整理なんてできるのかしら。時間はかかりましたが、何とかやり終えたと里美さんは思いました。
「どれどれ」
『石田さん』と呼ばれた青年は、出された本を次々と段ボールに分け入れていきます。
「こっちは古本屋さんにね。こっちの絵本は孫にあげるの」
「わかりました。やっとスペースができましたね。これなら机と床にあるのも全部入るんじゃないかな。」
「良かった。じゃあこの本が1番左。次はおんなじ色合いで少し色の薄いのを」
「並べてから色合いを見ましょうか」
「それもそうね」
里美さんはとても大きな本棚を持っています。が、既に中はパンパン。机にも畳にも本の塔ができつつあったのですが‥‥‥
「ありがとう。あなたがいなかったら一生お掃除なんてできないところだったわ」
「大したことではないですよ」
とても大したことでした。
思い立ったが吉日と、里美さんは少しだけ、お部屋のお掃除がてら本棚の整理を試みました。が、後悔は30分もしないでやって来ます。
出してみた本でお部屋は埋まり、はてさてどこから手を付ければいいのやら。里美さんの急なSOSに、石田さんはすぐに駆け付けてくれたのでした。
里美さんでは届かない、高いところにもハタキをかけてくれ、雑巾がけもしてくれて、段ボールの重さをきちんと確かめて封をして、ひとやすみのお弁当の時間です。
「せめておいしいお茶を入れるわね。私、何にもしてないんですもの」
二人で紅茶をすすり、じっくりと部屋を眺めながら
「これでちょっとは見られる部屋になったかしら」
「素晴らしいじゃないですか。畳が見えてますし、並んだ本も美しいグラデーションになりました。もう少ししたら、僕がゴミを出して来ますから、その間に雑巾をもう2枚、用意しておいてください。ちゃんと絞っておくんですよ」
「了解よ」
雑巾がけも無事に終わりました。
「私、けっこう頑張ったわよね」
「ええ。ほとんど僕のおかげですけれどね」
石田さんがいたずらっぽく言いました。
「ところで先生、明日の準備は終わってますか? 前にも言いましたけれど、歯ブラシも石鹸もシャンプーもタオルもパジャマもいりませんからね」
「わかってるわ。でもおしゃれなお洋服と枕はOKよね?」
「おっしゃる通りです」
石田さんが笑います。
里美さんは旅支度のチェックを始めました。
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