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「うん、ごめん」
優香は口を尖らせながらも、俺の顔をみてふと目元を緩ませた。
「ずるいよ、その笑顔。その顔で言われたら引き止められないの、わかってるんでしょ」
その笑顔はずるい、とは男女問わず周りからよく言われる。自分じゃ見えないからどんなものかは、よくわからないけれど。
とりあえず優香が本気で怒っているわけじゃないのはわかったから、片手をあげて、そのまま部屋を出てしまった。
愛嬌があるとか、かわいいとか言われ続けて17年。でもこれって本当の俺じゃないって思ったのはいつだったっけ。
たぶん7つ年が離れた兄貴のせいだ。真治は親父に似て、岩みたいにごつごつした身体に、かわいげの欠片もない顔と性格をくっつけている。でも頭は切れるし、運動もできる。ちなみに柔道は黒帯だ。
一方の俺は母親似。体のラインも細く、兄貴曰く典型的軟派な優男(絶対モテない僻みがはいってる)。人当たりも性格も柔らかだと言われてきた。俺が兄貴より優れているのは、コミュニケーション能力と顔くらいだ。
ただ。見た目に反して結構ひねくれた性格をしていると自分ではおもっている。だけど対照的な兄弟だと周りから言われているうちに、いつのまにか役割が出来上がってしまった。
まあ、ニッコリ笑っていれば、たいていの人間は、俺がおかしなことをしても許してくれるから、便利は便利かもしれない。
それが通じないのは、母親と兄貴、それからあの人くらいだ。
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