It's just love

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 速足で駅に向かっている自分に気づいて、なんだか笑いたくなった。勉強なんてしたくないのに、なぜこんなに急いで家に向かっているんだろう。  初冬の街並みはどこかせわしない。周りの急ぎ足につられるように、足は勝手に急ぎ、俺を連れて行く。家に近づけば近づくほど、心を圧迫してくる、わけのわからない感情などお構いなしに。  7時3分前。ギリギリでどうにか家についた。玄関の前ではあ、と大きなため息をつくと、白い息が広がって消えた。  ああもう冬なんだな、なんて思いながらノブを引こうとしたら、内側からすごい勢いでドアが開いた。  思わずわっ、と声をあげてあとずさった。中から顔をだした人と目が合う。 「ああ! よかったあ。貴大くん、やっと帰ってきた! そのあたり探しに行こうと思ってたんだ」  俺をみて、安心したようにニコニコ笑うひと。  彼女を見た瞬間、きん、と冷えた夜の空気がいきなりそこだけ溶けて、ふわっと温まった気がした。その熱が瞬間移動してきたみたいに、体温があがる。その感覚に気づかないふりをして、あっさりした口調で答えた。 「……そりゃ、ちゃんと時間には帰ってきますよ。琴美(ことみ)さんのカテキョ、忘れるわけないでしょ」  彼女を見下ろす。いつもながら妙に存在感はあるくせに、華奢で小さい。  まず俺より2 0センチは背が低い。小さな顔にちょこんとついている、ボタンみたいな丸くてつぶらな瞳も小さい。素で、ほんのり紅いおちょぼ口もミニサイズ。とにかくすべての造りが小さい。  さらに、いまどきめずらしい黒髪を、前髪ぱっつりのボブカットにしているから、俺より年下にみえる。可愛いといえば可愛いけれど、色気とは対極。これで五つも年上っていうのだからおかしくなる。勝手に緩んでしまいそうな口元を引き締める。  けれど琴美さんはそんな俺に構う様子もなくニッと笑うと、こちらの腕を掴んだ。 「さ、勉強するよ!」 「ええ! ちょっと待って。今帰ってきたばっかなのに。少し休ませてよ」 「ダメダメ。勝手に遅く帰ってきたのは貴大くん。ほら、早く」  小さいくせに力は強い。ぐいぐいひっぱられて、慌てて脱いだ靴はひっくりかえってしまった。母親がまた小言をいうだろうな、と頭の隅で考えるけれど、琴美さんにそれを言う気になれなかった。  俺の腕を掴んで、なんだか楽しそうにずんずん階段を登っていく、琴美さんの勢いを削ぎたくない、なんて思ってしまったから。
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