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* * *
また電話が鳴り、プロフェッサーがサトウキビ畑は見つかったかと聞いた。ロクはもうすぐ見つかりそうですと答え、電話を切った。ラテン語の本を持ったまま、壁の端っこだけが見えている護衛官寮に向かう。気持ちばかりが焦り、足が進まなかった。
外からのドアを開き、入口に入ると、カウンターのオキツが珍しく起きていた。
「夢かな、サンが見える」オキツはしわがれ声で言った。
「入っていい?」
「何の用かな。もうすぐ昼で食堂は猫の手も借りたいほど忙しいんだが」
「手伝いに来た」
「邪魔しに来たの間違いじゃろうて」
オキツはそう言いながらも、顎で許可を出した。ロクは廊下を行ってすぐの食堂へ入る。まだ準備中の札がかかっているが気にしない。今日はカレーだ。いい匂いが鼻をくすぐる。
ガラリと引き戸を開くと食堂のメンバーがロクに注目した。手伝い当番の護衛官もロクに驚く。
「リリ」ロクはカウンターに身を乗り出すようにして、奥にいたリリを呼んだ。護衛官たちが口笛を吹いてリリは顔を赤らめる。
「忙しいんだ。長話はやめろよ」リリの父が牽制する。「まぁまぁいいじゃないの」と母親が笑っている。リリはどっちにも視線をやってから、ロクの方に来た。途中で少し不機嫌そうな顔を作る。だってケンカをしているのだ。まだ継続中だということを示すために。でもロクが来てくれたということは嬉しかった。終結の印に違いない。
ロクはリリが近づいてくるのを待ち構えるように、カウンター越しに手を伸ばしてリリを引き寄せた。
「リリ、俺が間違ってた。わからないって言ったのは、俺がリリに好きでいてもらえるかわからないって意味だった。俺はリリのことが好きだ。俺が知ってることも、俺が知らないことも全部含めて好きだ。俺のことは嫌いになったかもしれないけど、もう一度好きになってもらえるように努力する。だからまたここに食べに来たり手伝いに来たいんだ。いいかな」
リリは一気にまくしたてるロクを驚いて見た。こんな強引なロクは初めて見た。
「いい…けど…」
「けど?」ロクは不安そうにリリを見る。
「嫌いになってない」
ロクは目を見張る。「マジ?」
リリはコクコクとうなずいた。「あれぐらいで嫌いになるんなら、それはホントの好きじゃないわ」
「…腰が砕けそう」
ロクが言って、リリは驚いた。「え、大丈夫?」
「クソ、おまえ、話は終わったのか。手伝え、この野郎」
護衛官がロクの横に布巾を置いた。テーブルを拭けと言う。ロクは呆然としてそれを受け取った。
「私も手伝うね」リリが側に来る。
護衛官たちが嫉妬で吠えたが、ロクはよくわからないまま緊張しながら手伝いをした。
胸の携帯電話が鳴り、プロフェッサーがそろそろ見つかったかと聞いた。ロクは見つかりましたと答えた。
「リリ、角砂糖三つもらっていっていい?」
「いいよ」リリは首をかしげながら言った。
「ゴメン、プロフェッサーに呼ばれたから戻ります」ロクは護衛官たちとリリの両親に言った。
何しに来たんだ、この野郎と護衛官たちは怒鳴ったが、ロクは小さく手を振っているリリを見て食堂を飛び出した。
オキツの横を通り過ぎようとしたとき、食堂の扉が開いた。
「ロク」とリリが呼ぶ。
ロクは急ブレーキで振り返った。オキツもリリを振り返る。
「今日、仕事が終わったら来て。クッキーを焼くから」
「わしもいただけるかの」オキツがロクより先に答えた。
「ええ」リリは微笑む。
ロクもうなずいた。「絶対行く」
リリは嬉しそうに微笑んでうなずいた。
* * *
プロフェッサーに角砂糖を届けると、プロフェッサーは冷えたコーヒーにそれを落としてスプーンで混ぜた。なかなか砂糖は溶けず、ロクはそれをじっと見ていた。
「これ、どこまで取りに行ってたの?」
プロフェッサーはロクを見た。ロクは笑って首をかしげた。
end.
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