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ロクは王太后が入って来たのを見て、緊張で体をこわばらせた。国王に会った時もそうだったが、やっぱり王室のトップと会うのは緊張する。緊張しないのはタイガと会う時だけだ。本来なら目線だけでなく頭も下げないといけないところ、病室のベッドの上で免除されている。ロクはそれでもできるだけ体を縮めるぐらいのことはしないといけないと思った。
「楽にしてください」
王太后が言って、用意されていた椅子に座った。これは医務室の椅子に布とクッションを置いたものだ。少しは座り心地が良くなっているのだろうかとロクは訝る。
「ロクと呼んで構いませんか?」
王太后に言われ、ロクは「はい」と即答した。他の返事が許されるとは思っていない。
「思ったよりも傷が深いようで驚いています。痛みはありませんか?」
ロクはとても戸惑う。「痛みは、あります」と言ってからそれで良かったのか考える。「あの…でも鎮痛剤があるので大丈夫です。今日はきつめに打ってもらいましたし」
「そうですか。一日も早く良くなることをお祈りしています」
「ありがとうございます」ロクは戸惑いを隠せない。
「あまり長い会話は体に触ると聞いてきました。ですので、大切なことだけを話したいと思います。聞いていただけますか?」
ロクは少しだけ顔を上げ、王太后を伺った。王太后は厳しい表情をしている。ロクは息を吸い込んだ。これはきっと悪い話だと思った。きっと最終通告だ。
「はい」とだけ答え、ロクはため息をつく。聞きたくない。でも聞くしかない。処刑か幽閉か追放。何にせよ結果は同じだ。大した未来はない。ゆっくり殺されるか、一瞬で殺されるかの違いだろう。ロクは自分が呼吸していることを強く意識した。生きようと思っていなくても心臓は動き、肺は酸素を運ぼうとする。脳は何をもってその価値があると判断しているのだろう。
「あなたを最初に襲わせたのは、私です」
* * *
マサトはトイレで飛び上がりそうになった。何だって?
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