第一章 十六歳の誕生日

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 納得したような長老にうなずくと、青年は璃鈴に向き直る。 「これは、龍宗様ご本人からの強い要望にございます。どうか、お受けいただきますよう」  真面目そうなこの青年にそこまで言われれば、璃鈴は自分が皇后として指名されたことが間違いでも何でもなさそうだということをやっと認識する。  そうとなれば、璃鈴がどう思おうと断ることなど出来はしない。 「わかりました」 「璃鈴……」  どうしてよいのかわからない体の長老に、璃鈴はにっこりと笑った。 「仕方ありません、長老。なんで私なのかは謎ですが、皇帝がお望みだそうですので、とりあえず都まで行ってまいります。まあ、もし皇帝の勘違いだったら、すぐに叩き返されるでしょうから帰ってきますけれど」  あっけらかんと言い切った璃鈴の態度に、長老も複雑な表情でうなずく。 「お前の教育はまだこれからだったというのに……不安は尽きねど、お前は聡い子だ。きっと、よい妃になれるだろう。都へ行き、お前のなすべきことをなせ。お前の受けたその誉を、大事にするがよい」  いつもは猿だの子供だのけなし放題の長老の言葉に、璃鈴は目を丸くする。けれどすぐに笑顔に戻ってうなずいた。 「はい」 「秋華」  それまで黙って聞いていた秋華に、長老は目を向けた。 「璃鈴の侍女としてお前も都へ行ってくれ」  秋華は、は、と息を飲んだ。戸惑った間はわずか。深々と頭をさげて小さく、はい、と答えた。その様子を、長老は複雑な思いで見つめる。 「璃鈴と仲の良かったお前にとってきついことだとわかってはいるが……それでも、璃鈴を支えることができる巫女には、お前が一番適しておる。お前は皇后としての知識は十分に備えておるし、なにより常に冷静で分別がある。どうか、わしが伝えられなかった知識を、璃鈴に伝えてやっておくれ」  秋華は顔をあげて何かを言いかけたが、結局絞り出すような声でまた、はい、と言っただけだった。  長老は青年に向き直る。 「使者殿」  呼ばれた青年は、真摯な表情の長老を見て自分も姿勢を正す。 「本来なら里をあげてのお出迎えをしなければならないところ、このような場所で失礼つかまつる。璃鈴を、よろしくお願いいたします」 「こちらこそ、先ぶれもなしの訪れをお詫びいたします。だがこれも皇帝のご意向とご理解いただき、どうかお許しください」  青年は、璃鈴を見た。 「急がせて申し訳ありませんが、このまま我らと宮城へお越しいただきたい」 「はい。では、仕度をしてまいりますので、少しのお時間をいただきます」  軽く会釈をすると、璃鈴は自分の部屋へと急いだ。 (なんだか、大変な事になっちゃった……)  ばたん!  璃鈴が荷物をまとめていると、いきなり部屋の扉が開いた。 「璃鈴! あんたが皇后に選ばれたって本当?!」  どやどやと入ってきたのは、璃鈴と同じ神族の巫女たちだ。璃鈴は、服をたたんでいた手を止めて彼女たちを振り返った。 「どうやらそうみたい」  それを聞いて、一番前にいた英麗が目をむいた。 「なんであんたなのよ! 私の方がずっと皇后として相応しいのに」 「あらどうかしら。三十の年増が来たら、さすがに龍宗様もがっかりするのではなくて?」  後ろから、瑞華が笑う。 「誰が三十よ! 私はまだ二十四よ!?」  きいきいとがなりたてる英麗を放っておいて、瑞華が言った。
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