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『何かあっても責任なんて取る気はねぇけん。だからこんなに安く住まわせてやってることは肝に命じぃや。まぁだけんど、気ぃ付けや』
と実際の年齢は分からないが、おそらく喜寿は終えているだろう大家のじいさんもはっきりと認めているが、格安の値段で借りたこのマンションの一室は幽霊が出る、という悪評のせいで借り手が付かない部屋だった。幽霊になどまったく興味もなくその値段の安さに惹かれての即決だったが、癖が強く、馴染みのないそのじいさんの方言には悪評が嘘ではないと思わせるような真実味があった。
幻聴でないなら、幽霊でも出たか。
すくなくとも実在する音ではない。
そう結論付けて俺はもう一度眼を瞑るが、するとまた音が聞こえる。どうせ誰もいるはずがないのに……、
と、眼を開けてまたさっきと同じく屑籠へと目を向けようとすると、あるはずのものがなくなっている。それは物体が消失したわけではなく、俺の視界を遮るものがあったからだった。いや、あった、というより、いた、というほうが正しい。
そこには長年、仕事上で付き合いのあった俺の相棒がいた。
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