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そんなプレゼント2
楽しくなった学校はあっという間に終わりを告げる。
快晴の卒業式。それでも空気は冷たくて、冬独特の……雪が降る前のにおいがしていた。
数少ないクラスの友達と別れを終わらせて、すっかり馴染み深くなってしまった屋上へ向かう。
階段をゆっくり登っていると、軽やかに階段を駆け登る音が静かな廊下に響いた。
「水田先輩!」
今までと同じように、上村が軽やかに階段を登ってくる。
違うのは俺が先に階段を登っていることだろう。
「上村、来てくれたんだ」
「そりゃ、もちろんっす! 卒業、おめでとうございます!」
「ありがとう」
いつもの屋上は冷たい風が吹き抜ける。
ここで俺は上村に、大切な時間をもらった気がする。
だったら次は、俺からなにかをあげないといけない。
俺は学ランの第2ボタンを引きちぎると、それを上村に差し出した。
「じゃあ、これ」
「水田先輩……?」
なんのこっちゃ。という顔をしていた上村に「欲しいって言ってたよね?」と聞けば、上村は顔を真っ赤にしてうつむいた。
「あの、嬉しいっす! 覚えててくれて、ありがとうございます! でも……」
上村はいつもと違う顔をしていた。
いつもの、はじけるような笑顔じゃなくて、なんとなく泣きそうな顔。
「上村? おーい?」
「サーセンッ!」
冷たい外気に触れていた顔が、あたたかくなる。
そして、また冷えていく。
「第2ボタンでガマンしよっかなって思ってたんっすけど俺、こっちの方が、ほしいっす……」
あ、上村にキスされた。そう思っているとそんなことを言われた。
「……勝手に貰ってくなよ」
「サーセンッ!」
不思議と嫌じゃない。むしろ、もっとしていたい。
「あの、俺……はじめて階段ですれ違ったときから、センパイのこと好きでした! サーセンッ!」
あ、上村もすれ違う時に気づいていたのか。
いつからだろう、それ。
いや、考えるのは後回しだ。とりあえず今は、涙の代わりに鼻水を垂らしはじめた上村をなんとかしよう。
「謝るなよ、上村」
俺はそう言ってカッターシャツの袖で、すとすと落ちてくる上村の鼻水を拭った。
「サーセンッ! サーセンッ!!」
「……たぶん俺も、好きだからさ」
そして俺はかつてないほどに驚いた顔をした上村にキスをした。
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