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yesterday
音楽のなかに記憶が宿る。
とうに忘れ去っていたはずの、意識の奥底にひっそりと眠るはるか昔の出来事と結びつき、ふと鼻歌とともに蘇ることもある。
厳しい冷え込みをみせるクリスマスイブの夜。
帰宅した夫が理沙に差し出したのは、サンタクロース柄の包装紙でラッピングされた、薄い正方形だった。
夫である侑人と結婚して五年、いつの間にかプレゼントという概念が消失しかけていたのに、どういう風の吹きまわしだろう。
「どうしたの、突然」
「突然ってことはないだろう? クリスマスなんだから」
「それはそうだけど……」
そう困惑しながらも丁寧にはがした包装紙のなかから、四人の外国人男性が理沙を見上げた。
黄色いTHE BEATLESの文字が大きく印字されたCDジャケット。
「えっと……これって、ビートルズ?」
「うん。理沙、好きなんだろ?」
妻が喜ぶのを見越していたという様子で、侑人は満足そうに微笑んだ。
けれど理沙はテレビのCMやBGMで耳にしたことがあるくらいで、ビートルズを好んで聴くどころか、そういうバンドが昔、一世を風靡したのだということしか知らない。
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