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今日も屋敷の夢を見る。
私は屋敷を彷徨い歩く。
「あなた、いつもここに来るのね」
今日は、女性の背中から声が聞こえた。
扉の奥の、そのまた奥に、うなじが見えた。
「いつまでここに来るの?」
私は答えた。
「ここしかいる場所がないのよ」
女性は言った。
「どうしてここにはいてもいいと思ってるの」
私は答えた。
「私の夢だから」
女性は言った。
「あなたの夢ならば、あなたはいてもいいの?」
私は答えた。
「いたい」
女性は笑った。
「あなたはいてはいけないでしょう」
「夢くらい私に残してくれてもいいでしょう」
「どうして? あなたは何も持つべきじゃないわよ」「なぜ」「あなたは役に立たないからよ」「私がんばったじゃない」「ほんとうかしら」「がんばったわよ」「そう思いたいだけなのではなくて」「なぜ」「自分に酔いたいから」「結果も出したわよ」「過去の栄光にしがみつくのは馬鹿のすることね」「しがみついてなんかないわ」「じゃあどうして言ったの?」「あなたが馬鹿にするからよ」「あら、どうして自分を守っているの、守っちゃだめでしょう」「私しか私は守れないのよ」「そのとおりね、あなたを守る理由が皆にはないもの」「やめて」「皆あなたが嫌いだから」「何も言わないで」「あなたを生みたくて生んだ人っていたかしら」「聞きたくない」「あなたは邪魔なのではないかしら」「うるさい」「どうして他人を気遣っているの?」「そうしなければ怒られちゃうでしょう、ただでさえ迷惑なんだから」「誰に怒られるの」「知らない」「迷惑をかけたくないならその前に死ねばいいでしょう。矛盾してるんじゃないの。あなたはいつもそうね、面倒なひと……」「だまれ」「あなたをほんとうに愛している人なんてひとりもいないわ」
女性は扉を開けて、隣の部屋へ消えていった。
私は独りで残された。
「ころしてやる」
悲鳴は誰にも聞こえなかった。
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