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昔から、不思議な屋敷にいる夢をよく見る。
いつも同じ屋敷だ。
薄墨色の室内に、月白の砂子を散らしたような、ぼやけた世界。
一昔前の録画を見るときのような、曖昧な輪郭――……。
木板の床を一足歩くと、人肌の空気がまとわりつく。
同じ部屋から、夢は始まる。
目の前には、開け放たれた片開きの白い扉。
その奥には、同じように開け放たれた片開きの白い扉。
その奥にも、同じように開け放たれた片開きの白い扉。
一番奥。女性の後ろ姿が見える。
黒髪を結い上げた、黒橡のドレスの女性。
頚椎を皮膚がくるんで、うなじがなめらかに屹立する。
女性はただ立っている。
私は彼女をよく知らない。
話しかけてはいけないように思う。
窓はある。
朝の光は剥いたばかりの白桃のように清々しく。
昼の光は景色と人間(あるとすれば)の境界線を溶け合わせるように。
夜の影はいつも屋敷を世界から切り落とす。
訪れるたびに、明度の違う情景を映し出す。
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