トンちゃんの三輪車

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海の近くの社宅の庭 その隅に 自転車置き場がありました。 自転車置き場と言っても 木の柱にトタンの板を打ち付けて作った簡単な小屋で 壁に古い子供用の三輪車が3台 引っ掛けてありました。 三輪車は もう何年も何年も、 そこに置きっ放しになっているのです。 昔々、そこに住んでいた子供達が 引っ越して行く時には大きくなっていて 三輪車に乗るような年ではなくなっていたのでしょう。 それで、そのまま置きっ放しにして 引っ越して行ってしまったのです。 それでも昔は 「これ貸してもらおうよ」といって 新しく引っ越してきたオチビさんが 乗ってくれた事もありました。 けれど、長い間、夏の暑い日差しや 冷たい潮風にさらされつづけた三輪車たちは どこもここもさび付いて ビニールのサドルは色あせ すっかり汚らしい姿になってしまい、 誰も乗ってみようなどと 言ってくれなくなってしまいました。 三輪車たちは それは惨めな、情けない気持ちで一杯でしたが 自分たちではどうしようもありません。 こうして、黙って、くる日もくる日も トタンの壁に、 前の車輪で引っ掛かっているしかないのです。
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