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証券会社の幹部からも高い評価をもらい、会社の名も上げた。
いよいよ新システムが稼動し、ささやかなお披露目会が証券会社の内部で開かれた。先輩と黒瀬川も開発者として出席し、もてなしを受けた。
これで拡大路線の波に乗ることができる。
そろそろ今後の保守契約の話を切り出そうかと思っていたときだった。
システムを開発したメインのエンジニア3人から相次いで退職届が出された。3人とも体のよいの退職理由を申し出てきたが、蓋を開けてみればその証券会社がつくった子会社への転職だった。開発したシステムを保守するための要員として引き抜かれたのだ。
黒瀬側は証券会社の幹部へ抗議した。
商慣習を守るべきだ。それがこの業界の暗黙の了解ではないか。
あれほど時間をかけてコミュニケーションをとり、信頼関係を築いてきたつもりだったが証券会社の幹部はシレっと言った。
「黒瀬川さん、『商慣習』とか『暗黙の了解』とかそちらの都合で理屈を並べられても困りますよ。弊社は御社との契約に何も違反していません。契約書がルールであり、それを守りながら仕事をするのが当り前のことじゃないですか。私たちがルール違反を犯したのであれば具体的に指摘をしてください」
訴訟という言葉をちらつかせながらそう言われるとぐうの音もでない。
赤字覚悟の契約だったのだ。会社は傾き始めた。
先輩とも関係も一気に冷え切ったものになった。
応分の債務を2人で分担して会社を整理するまで時間はかからなかった。
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