フェアプレイ

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 それでも硬式野球部はこの高校の運動部の中では最も活発な方である。他の部活動が受験に備えるために2年生の学年末ですべての活動を終了してしまうのに対し、硬式野球部だけは夏の大会がある7月まで活動を続けることが伝統になっている。したがって野球部に入ると必然的に浪人する確率が高くなる。教職員や保護者の中には「浪人部」と陰口をいう者さえいる。  3年前のことである。  この野球部に異変が起きた。  といっても中等部の軟式野球部での話だ。  光陽学園中等部の軟式野球部が県内の公立・私立の中学校を軒並み倒したのである。そして全国大会に出場した。中学校の軟式野球に高校野球連盟のような全国的に確立された組織はない。そのうえ15歳未満の将来性のある野球少年はシニアリーグやボーイズリーグという硬式野球をやっていることが多い。そんな事情はあるにせよ光陽学園の運動部で全国大会へ進出するのは中等部、高等部を通じて創立以来の出来事であった。  そのチームの主将は宮川という。  小学生時代から地域の野球ではキャプテン、4番、ピッチャーで活躍する存在であった。体格に恵まれているわけでもない。将来プロへ行くような特別な運動神経に恵まれているわけでもない。ただ優れているのは、人並み以上の負けず嫌いの性格と努力を惜しまな根性であった。  小学校時代から自ら毎日素振り1000本を課しており、手の皮は小額高学年からぼろぼろになっていたという。練習では自ら手荒なノックを受けることを志願し、整備の行き届かないグラウンドで一日に何十回も横っ飛びのプレーをやるので体はいつでも擦り傷と痣だらけだったという。体中にできた痣やマメがつぶれてボロボロになった掌を見た小学校の担任が虐待を疑ったほどだったという。
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