フェアプレイ

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 さらに宮川少年が優れていたのは、人心を掌握する能力であった。キャプテン風を吹かすこともなく、自らの極限までの努力を他人にひけらかすこともなく、野球をやってない生徒ととも分け隔てなく気さくに付き合った。いつでも朗らかに振る舞うオープンな性格に、宮川の周りにはいつでも友達の輪ができていた。  そんな宮川は光陽学園中等部に進学すると、すぐに野球部に入る。そして自分のクラスはもちろん、学年中をまわりリトルリーグの経験者がいると声をかけ、野球部に呼び集めた。さらに野球経験がなくても運動神経のよい者がいると聞くと野球部に勧誘して回った。  宮川はしごきや特訓を強いることもない。ただし、自分には厳しく、納得いくまで自分を追い詰める。そんな態度を見て、自然と部員たちも引っ張られていく。そして宮川たちの代が中学3年になった夏の大会で、県内の公立中学校を次々と破った。それまで弱小であった光陽学園中等部は全国大会へと進むまでになったのである。  その代の生徒たちが進級を重ね、高等部2年となった。  軟式から硬式へと変わるが主力メンバーはそのまま残った。  新チームと成った宮川たちはこの秋の県大会でベスト16まで勝ち進んだのだ。  神奈川県の高校の数は200校近くある。全国一の高校数を誇り、野球強豪校がずらりと並ぶ神奈川県の大会で、有名進学校がベスト16まで進んだことは県の高校野球界にとっても『事件』であった。  それだけにパーティー会場に集まったOBたちの喜びも大きい。  会場は立食形式であり、喧騒の中で赤ら顔の男たちが行きかいながらあいさつを交わし、野球部談義に花を咲かせる。  司会が「それではここで現役監督からのあいさつです」と紹介すると、黒瀬川が壇上にあがった。顧問ということは監督であり部長でもある。
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