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「…何言ってんだよ。
お前はお前で一族を変えるっていう大層な事をやらかそうとしてるし、巫女のために頑張ろうとしてんだろ?
それだって、やりたいことの一つだろう。
何も一つの専門分野を突き詰めることだけじゃねーよ。ばーか。」
しょんぼりする私を朝輝はわざと口悪く言って軽く頭を叩いた。
「そうそう!熱中する何かなんて人生のいつどこで出会えるかわかんないんだから。焦る必要もないし、探す必要もないのよ!
大切なのは心が動いたことに行動できるかどうか、なんだから!」
「心が動いたことに行動できるかどうか……。」
水美さんの言葉が今日イチ心に響いた。
「…昨日、言っただろ?現実を創造し変えるのは認識だと。
心が動いたとしっかり認識すれば、行動に移せる。
僅かな行動でもそれがバタフライ・エフェクトとなり、後に何か大きなものを変えるかもしれない。
今のお前がやろうとしてることはそういうことだ。」
朝輝の言葉にただ突っ走ってきただけで私には何もないと思っていたけど、今はまだそれが見えるところまで来ていないことに気づいた。
「…いつか、その景色が見れるかなぁ。」
「…もう賽は投げられた。諦めなければいつか見れる。」
「…うん、そうだね。」
さっきは叩かれた頭を今度は撫でられた。
「お話中ですが宿に到着しました。」
運転に集中していた智慧さんの声に、窓の外に目を向けた。
話に夢中で気づかなかったけど、いつの間にか有馬温泉に着いていた。
重厚感がありつつもどこか静寂のなかに奥ゆかしさを感じられるような、侘び寂びの言葉が似合う門の前に車を停めると、門の奥から着物の女性とスーツ姿の男性が小走りで出てきた。
智慧さんは車を降りると朝輝の乗った後部座席のドアを開けた。
私も降りようとドアノブに手をかければ水美さんがドアを開けてくれる。
「ありがとう、水美さん。」
と声をかけて降り立つと水美さんが不自然にならないようにスッと顔を近づけた。
「ここからは奥方様とお呼びします。」
小声で言われたことに、ここでは長の妻としての振る舞いが求められていることに気づいた。
「わかりました。」
その意味を汲み取ったと伝えるために敬語で返し、車の前方で待つ朝輝の隣に立った。
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