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「では、私たちはこのまま談話室へ参ります。長と奥方様はいかがされますか?」
水美さんが助役の顔で尋ねた。
「…5分ほどで行く。」
「承知しました。」
水美さんと智慧さんが頭を下げると、朝輝に腰を抱かれて左側の部屋に入った。
玄関を開けると黒御影石を飛び石のように敷いた三和土があり、正面に麻の葉の透かし格子がその向こうにあるガラス張りの渡廊下からもたらされる光を優しく玄関に運んでいた。
部屋は左手へ広がり、式台から続くその先の室内も全て贅沢に琉球畳が敷かれていた。
「あ、温かい……。」
式台に敷き詰められた畳を踏めばほんのり温かい。
「…温泉を床下に仕込んで床暖房にしているからな。こっちだ。」
その理由を朝輝が説明してくれた。
室内は和モダンで統一されハイセンスなインテリアが配置され、部屋と広縁の間仕切りには籠目の透かし格子戸があり、部屋の畳に六芒星を描いていた。
壁一面の窓の外には奥に竹がほどよく隙間を空けて植えられ、手前に枯山水、その間を歩けるように小路が設けられた庭があった。
目に映るものの全ては洗練され凛とした佇まいで、しかし人を癒やす落ち着きの空間を作り上げていた。
「………素敵………。」
「…気に入ったか。」
「うん、とても…。」
「…良かった。部屋の探検はまたあとで。談話室に行くぞ。」
朝輝は広縁に出ると、その右端の引戸へと歩を勧めた。
引戸の向こうはガラス張りの渡廊下を経て談話室へと続いていた。
談話室に入れば、真ん中に大きなテーブルセットが畳の上に置かれていて、水美さんたちが先に座って待っていた。
「二人ともお疲れー!夕凪ちゃんもうすぐ女将が来るけど、すぐにいなくなるからもう少しだけ奥方様頑張ってね。」
「お疲れ様です。うん。」
慣れない “ 奥方様 ” に緊張しているのがバレているらしい。
返事をしながら、朝輝の右隣に座った。
朝輝の向いは水美さん、その隣が智慧さんの席順だった。
「失礼致します。お茶をお持ちしました。」
外から直接入れる通用口から女将さんの声が聞こえた。
水美さんとの砕けた会話で一瞬、気が抜けたが慌てて奥方モードに切り替えた。
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