始動ー新婚旅行

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女将さんは手早く、でも優雅にお茶を配り終えるとテーブルの通用口側に立ち口を開いた。 「お夕食は何時頃が宜しいでしょうか?」 「…今日は遅めの昼食でしたので、そうですね…。申し訳ありませんが19時でも良いですか?」 朝輝が腕時計を確認して女将さんに時間を告げた。 「かしこまりました。19時にこちらにご用意致します。 ではごゆっくりお過ごし下さい。」 女将さんはお辞儀をすると通用口から出て行った。 足音が遠ざかるのを確認してから、私は大きく息を吐いた。 「はぁぁぁ〜。疲れた。」 「ふふっ、奥方修業も必要そうねー?」 テーブルに突伏(つっぷ)した私に水美さんが奥方修業と言い出した。 「巫女修業終わるまでは無理…。そんなに頭に入らない…。」 まさか、新婚旅行で“ 奥方様 ”にならなきゃいけないと思ってもなかっただけに尚更疲れた。 「ここも一族御用達だったんだねー。おかげでこんな素敵なところに泊まれるけど。 てか、ここも間仕切りは六芒星なんだねー。こんなところで六芒星を見るとは思わなかった。」 談話室の広縁との間仕切りも籠目柄なのに気づき、畳に描かれた六芒星を眺めながら呟いた。 「籠目紋の格子戸は魔除けの役割があるのよ。 この玉響(たまゆら)の間はね、一族と一族が許可した人だけが入ることができる離れなのよ!」 水美さんのトンデモ説明に飛び起きた。 「…まさか、ここも一族なの?」 「…一族ではないが(フアン)グループだな。」 横から朝輝がしれっと答えた。 「朝輝の会社の!?あ、だから畳が温かい構造を知ってたんだ!?」 「…そういうことだ。」 「ですが、初めから(フアン)グループじゃなったんですよ。 こちらは代々、一族が利用してきた旅館でしたが不景気の煽りを受けて破産寸前まで追い込まれました。 そこで朝輝様が経営なさる不動産会社がこちらを買取り、古くなった建物も全て建直し、所有権だけ(フアン)グループで経営は以前のままに桐月家へ託しているのです。 私ども一族にとって失くしてはならない場所でもありますからね。」 説明する気のない朝輝から智慧(ともさと)さんが引き継いで話してくれた。 「へぇ〜。そうだったんだ。だから一族のことも知ってるんだね。」 ただ一族御用達というわけじゃなかったことに納得した。
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