運命とはいかに。

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後ろ手に柵を掴んだ腕を伸ばして何気なく下を覗く。 「ねぇ。キミが唯一持ってる大切なものってなーんだ?」 !!!!!! 真横からの声に柵から手を離しそうになった。 反射的に顔を向ければ、いつの間に柵を超えて隣に来たのか、人懐っこい笑顔を浮かべた高校生くらいの男子がいた。 「おっとぉ。まだ話の途中だから飛ぶのは待ってね。」 「...は?」 なに、この人。 思わず柵を離しそうにそうになった私の手首を掴み、ニコニコと笑ってる男子。 「もう一回聞くね?キミが唯一持ってる大切なものってなーんだ?」 「......。」 本当に何なのっ!? 私が言うのも何だけどこの状況がわかっててニコニコしてるの!? 頭おかしいんじゃない!? キレイな夕日にすらさほど動かなかった感情がひどく苛立つのを感じていた。 「キミが唯一持ってるもの、命だよ。」 最初から待つ気はなかったのか、彼は相変わらずニコニコしたまま答えを言う。 「説教なら他でしてっ!」 私は声を荒げた。 そんな私におかまいもなく、彼は夕日を眺めながら明日の天気の話でもするように言葉を続けた。 「説教?そんなのするつもりはないさ。ねえ、なぜ戦うの?戦って何かいいことがあるの?」 なんで戦ってると思うのよ。戦ってなんかない。そう、私は戦ってなんかない。ただ... 「...戦ってなんかない。私はただ奪うだけよ。」 私は早々に話を切り上げようと落ち着いたフリを装いながら淡々と呟いた。 「いーや!キミは間違いなく戦ってるよ。」 飄々と言う彼の声音、表情、しぐさ、全てが私の(かん)(さわ)った。 「...ッ...そーよ!戦ってるわよッ!!あんなヤツらに負けたくないっ!負けたくないから奪ってやるのよッ!!」 叫んで柵を握りしめる私を横目に彼は変わらず飄々と話す。 「ほーら、戦ってる。戦ってボロボロになって、キミは今、......」 「一番大切なものを捨てようとしてる。」 一旦区切られた言葉の続きは、つい今までのんびり喋っていた人と同一人物とは思えない程の低い声音だった。 弾くように彼を見れば、ニコニコしてるけど背筋が寒くなるような眼を私に向けていた。 「その命、いらないなら僕が貰い受けるよ。」 刹那、体の中を風が通り抜けたような感覚がした。 《...やめろッ!!夜留(よる)!!》 ドサッ。 「えっ…………キャー!!!!」 「...きっ、救急車!!救急車呼べ!!」 下から騒がしい声がこだましているけど、私の意識は得体の知れない何かに向いていた。 「あー、起きちゃった?でももう遅いよ?」 彼は飄々と私ではない誰かに話しかけている。 「だ、誰と話してるの?」 頭では関わらない方がいいと警鐘が鳴っていたけど思わず聞いてしまった。 「んー?僕の器?それよりキミの命、貰い受けたから。ほら、下。」 私の質問に流すように答え、そこから気を反らすように「それより」と下を指差して言った。 その指を辿って下を見れば私が地面に這いつくばって、通行人の悲鳴が響き渡っている。 「え...?」 私はここにいる。 私は私を見下ろしている。 「まぁ、と言っても邪魔が入ったから、まだキミは死んでないけどね。あれは幻覚みたいなもの。キミは死んだ事に “ なった ” だけでまだ死んでない。だけど、現実世界では死んだ事になる。今ここにいる君は僕にしか見えないよ。」 は?死んだけど死んでない? 現実世界では死んだ事になってる? 意味わかんない。この人は何を言ってるの? 「じゃ、そろそろ僕は眠る時間だ。またね。」 呆然と私の死体らしきものを見つめる私を置き去りにして、彼はまたよくわからない言葉を吐いた。
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