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「...ったく。好き勝手しやがって。」
「...おい。」
目の前の現実が理解できず無意識に、眼下にある “ 私 ” から彼に顔を向けた。
そこには彼とは別人がいた。
いや、見た目は彼だけど、ニコニコした表情や飄々とした態度の彼とは正反対に近い。
鋭い目付きにいかにもな不機嫌を顔に浮かべ、突き放すような話し方の人物がいた。
別人の彼もまた私の心情などお構い無しに話し始めた。
「聞こえてるか。お前は夜留に体から魂を引き離された。」
「あなた...誰?」
「...チッ。俺は朝輝。さっきのヤツも俺の一部。自己紹介終わり。で、下のヤツらが見てるアレは幻覚だ。だが、幻覚で現実は動いていく。お前は死んだわけじゃない。体もそこに生きてる。今のお前はただ、誰にも認知されない、見えない存在になった。」
別人の彼は面倒くさそうに名乗ると私の反応を待つ事なくさっさと説明を続けた。
私はまた下の “ 私 ” に目を向けた。
目の前の事に頭がついて行けない。
さっきの彼の言ってた事も今の彼の言ってる事も理解できない。
「...どうすれば?」
何がどうなっているのかわからない。
なのに口からこぼれた言葉だけは冷静なものだった。
「...ついてこい。」
そう言って彼は強引に私を片腕で抱え柵の内側へと戻り、そのまま腕を掴んで階段へと歩きだした。
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