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「神宮くんの名前って何て読むの? セイシン?」
床の粉がすっかり綺麗になった頃、彩加はそう訊いてきた。ハッと我に返る。
「――ああ……いや、『せいご』って読むんだ」
『清心』と書いて『せいご』。間違えるのは無理もないし、これまで何度も経験してきた。
「へえ、せいごなんだ。読み方初めて知った」
人懐っこく、彩加は笑った。それで僕の警戒心も少し薄れた。
「はは……。実は、実家が寺でね。おじいちゃんが住職なんだ。だからこんな固い名前つけられて」
付け加えるなら、だから『掃討士』になった。いや、ならされた。
「寺!? マジっ!?」
わかりやすく表情が変化する。少しオーバーなくらいの反応は、話し相手としては心地いいものだ。
「いわれてみれば、神宮って苗字もすごいよね」
「まあ、珍しいだけですごいものじゃないよ。――名雪さんは、何ていうか、綺麗好きだよね? 教室のゴミ捨ていつもやってくれてるし」
「ん? ……ああ、うん、そうだね」
なんだろう、わずかな違和感を覚えた。微妙な反応。拒絶するかのようでもある――。そう感じながらも、言葉を続けた。
「もしかして、親がそういう仕事だとか?」
いったあとで、変な質問をしたな、と後悔した。自分が家系の事情に振り回されているから、ついそんな質問になってしまったのだ。
けれど、この問いかけは間違いじゃなかった。むしろ引き金となった。彼女に巣くう、妖という名の異物を引き出すための。
「ううん……。そういうんじゃないよ……。普通のこと。道端にゴミが落ちてたら、拾うのが当たり前でしょ?」
抑揚なくそう呟いた彩加の瞳は、ぼんやりとした赤色をしていた。
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