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※※※
それは本当に偶然の出来事だった。
放課後の人もまばらな教室で、僕はたまたま、黒板の下にぶら下がっているチョークのケースにぶつかってしまった。灰色をした金属のケースは、床に落ちて色とりどりの粉を飛散させた。
激しい物音をさせた恥ずかしさと、片づけの面倒さで少し萎えていた僕のところに、彩加はやってきた。
「拭くの手伝うよ」
親切にされた嬉しさよりも、彼女の放つ香水の匂いが鼻についた。クラスでは有名な話で、その過剰な香りには賛否両論があることも知っている。
ただ名雪彩加という人間自体は、茶髪や化粧を初めとした見た目の派手さのわりに常識人であることもあって、香水は彼女のキャラクターの一つとして理解されていた。
そしてそう、掃除好きなところも、好感を持たせる要素だった。
「ごめん、ありがとう」
評判通りの行動だった。すでに残った人間が少ないとはいえ、他に手伝いを名乗り出る人間はいなかった。
彼女は美化委員でもある。自ら立候補した。週末はボランティアの清掃活動に参加しているという噂もある。あまり聞かない話だ。そこまで並々ならぬ情熱を捧げるのはなぜだろう。
そんなことを思いながら――ふと彼女の香水の香りのその奥に、僕は何か不審な匂いを発見した。或いは僕が『掃討士』だったから、気づいたのかもしれない。
率直にいうなら、それは異臭だった。
生ゴミのような匂い――という表現は、さすがに女の子を形容する言葉としては使えないが、しかし僕の嗅覚はそれに近い何かを感じ取っていた。
いったい、何の匂いだ――?
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