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妖に妖された人間は、瞳に朱を宿す。そしてその変化は、掃討士であり同じく妖に呪われた人間である僕には目視することができた。
名雪彩加は妖されている。
掃討士として看過はできないし、してはならないのが掟だ。少なくとも、彼女自身に知らせる義務が発生する。それだけでも、妖の悪影響を薄めて、妖された者を現実に引き戻す効果があるからだ。
しかし――問題はいったいどんな妖なのだろう、ということだ。彼女のパーソナリティを、僕は今一度考察した。
掃除好き、綺麗好き、きつめの香水。そして、さっき感じた、生ゴミのような異臭――。
ベテランの祖父に叩き込まれたこともあって、幸い妖に対する知識はそれなりにある。今回のケースに該当する障例を、僕は一つ知っていた。
ただ、いきなり切り出すと不審がられるに違いない。
「神宮くん?」
彼女が怪訝な顔をする。今更ながら、彼女とこんなふうに会話をするのも初めてのことで、なのに妖だなんだと語り出したら、気持ち悪がられるのではと不安が増してきた。
なるべく外堀から埋めていくように、話を進めなくては。
「あの……突然こんなこと聞くのは失礼だと思うけど――」
前置きして続ける。
「もしかして、名雪さんの家族の中に、掃除が苦手なひとっていたりする?」
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