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※※※
「妖っていうのは――うーん……」
彼女の家までの道のりを歩きながら、彩加にどう説明すべきかと頭を悩ませていた。
「わかった! 幽霊みたいな感じ?」
彩加はパチンと手を叩いた。
「いや、幽霊ではないんだけど。……まあ近いものでいうなら、妖怪とか物の怪がそうかな?」
数十分前――僕からの急な質問に、彩加は首肯した。
該当者は彼女の母親だった。片づけが苦手で、放っておくと家にゴミが溜まっていくという。彩加はそれを処理し、掃除をすることが習慣となっていた。学校でも掃除に精を出していたのは、そういう経緯があったわけだ。
そして、彼女の母親を無精にしてしまった原因が、おそらく妖なのだ。不潔を好み、家に汚物を持ち込む、『塵怪』という妖が存在する。彩加の母親はたぶん――。
「じゃあ、お母さんが片づけられなくなったのって、その妖が原因だったんだ」
僕の心中を先読みするように、隣を歩く彩加がいった。彼女自体は見た目も小綺麗、今風の出で立ち――ただ妖の影響を受けて、例の異臭が身体に染み着いているようなのだ。それを香水でごまかしているのだろう。
「うん。妖されたんだと思うよ」
「あやか、された?」
彩加はポカンとする。
「ああ、ごめん。えっと、悪戯されたとか取り憑かれたとか、そんな感じの意味」
「そっか。だからだったんだ……」
急に声の調子が落ちた。
「どうかしたの?」
「ううん。もっと早くわかってたら、何とかなったかもしれないのに、って」
彼女のいう真意がわからず、僕は口の中で唸っただけだった。
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