妖(あやかし)

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 リビングに入った。テーブルの周りを取り囲むように散乱したゴミ。ゴミの山。テレビでこんな光景を見たことはあるが、いざ目の前にすると言葉を失う。  これを片付けるのは大変なんだろうなあ――。 「お母さん、いないね?」  (あやかし)の気配があっても、人間の気配はない。僕と彩加の二人以外は。 「うーん、おかしいなあ。……買い物かな? いつもなら、このテーブルの横に座ってテレビ見てるんだけど」  テレビもまた、物に埋もれていた。強烈な異臭。それはまさに、彩加の香水に混じって香ってきたあの匂いと一致していた。 「そもそも(あやか)されてたわけか」 「えっ? その(あやかし)ってヤツ、見つけたの?」 「ん、ああ、そうだね。――塵怪(じんかい)って(あやかし)は、汚物に囲まれることを好む種類なんだ。そうして居心地のいいテリトリーを作り出して、土地に根付こうとする。人間に直接害を与えることはないんだけど、まあこんな不衛生は結局害になっちゃうし迷惑になるってことで、駆除対象になる(あやかし)だね」 「そうなんだ……。じゃあ早く、お母さん探さないと」  彩加はくるりと、こちらに背を向けて、部屋の奥に進もうとする。 「大丈夫だよ」  僕は声を大きくした。 「その必要はないんだ。塵怪(じんかい)は、」  振り返った彩加の瞳は、ぼんやりと赤く染まっていた。(あやかし)に呪われた者が持つ朱の瞳。
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