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みんなの言葉には個性がない。だから、誰が言ったかなんてどうでもいい。
色があるのだとしたら、きっと毒々しい赤紫だ。ぶどうを食べ終わったときの、爪の間に残る色。目に入ったときに、ちょっと顔をしかめてしまう色。
そんな色で、ただべったりと塗りつぶされただけの言葉たちは、大量生産で、たいした価値もないくせに、みんなはそれを欲しがるし、持っていなければ仲間はずれにされてしまう。そして、手にしたとたん、見せびらかすように振りかざす。
ミカの言葉は薄いピンク色。今日、ミカが巻いていたマフラーの色。さくら色。もも色。丸くて柔らかくてあったかそうな色。ぽんぽんと弾むような個性的なそれは、大量生産の言葉たちとはすこぶる相性が悪かった。
けれど、みんなはその色の奥に潜んだ鋭さを知らない。桜の葉にギザギザがあるように、桃に無数の産毛があるように、ミカも鋭さを秘めている。それを知っているのは、自分だけ。
「それに、ほら、あの子が言ってた「ことり同盟」……だっけ」
「あーそうそう。頭の中、メルヘンかよって感じ」
「そんなのに巻き込まれるなんて、まじ悲惨だよね。可哀想」
「ことり同盟」。それは、ナオとミカ、世界に二人だけの特別な絆。
だから、そう言われたとたんに、ナオの腹の底から怒りの感情と言葉が、ぐわっとせり上がってきた――が、その瞬間、バスが大きく揺れた。つり革につかまっていたナオたちの体が、くるりと反転してしまうほどだった。
「ちょービビったー! コケるかと思ったし!」
言い掛けた言葉を腹の底に押し戻して、ナオは「そうだよねー」と、適当に相槌を打った。バスの揺れに合わせてバランスを取りながら、ナオはマフラーをもう少し緩めた。なんだか息苦しくて仕方ない。
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