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ミカのことから話が逸れて、ナオはホッとしていた。もし、あのまま続いていたら、ナオが飲み込んだ言葉を口にせずにはいられなかっただろう。そうすれば、ナオの残りの高校生活は、『親友』たちとぎくしゃくして過ごすことになってしまう。今となっては変わってしまった友情ではあるけれど、そんなことは、ナオも望んでいなかった。
「あ、イケメン発見」
「どこどこ?」
「あのばーちゃん、髪色やばくない? 真緑じゃん」
「いいじゃん、クリスマスカラーでしょ」
話題は、窓の外を流れる景色と同じくらい、いやそれよりももっと早く移り変わっていく。
「さっき」なんてもう過去。
目を閉じて開けばもう次の場面。
一日なんて飛ぶように過ぎていく。それなのに、体や心は、勝手にそのスピードに順応して、勝手にかたちを変えてしまう。気が付けばすべてが当たり前になっている。ときどきナオはそれがどうしようもなく怖くなる。
降りるバス停が近付いて、ナオは降車ボタンを押した。じゃあ、と言って手を振るナオに『親友』たちの言葉が追い掛けてくる。
「直子、また明日ね!」
バスを降りると、びゅうっと強い風が吹いた。けれど、暖房で火照った体にその冷たさが心地よかった。ナオは胸一杯に冷たい空気を吸い込んだ。ずっと息苦しかったのは暖房のせいだけではなかった。
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