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物心ついたときからずっと、自分には何か余分なものがくっついているような気がしていた。しかも、それが簡単には切り離せないものだということも、なんとなく分かっていた。
「お名前は?」
そう聞かれることがたまらなく嫌だった。
「吉村直子」
そう名乗るたびに、いつも首を傾げたくなった。
幼稚園に通うようになり、結愛、美月、玲奈、花音……そんな可愛らしい名前たちに囲まれて、その「何か」の正体にやっと気付いた。そして「直子」はいつも名札を裏返しにして、先生たちを困らせるようになった。
小学校の入学準備は「直子」にとって、拷問に等しかった。ランドセルに上履き、さらには鉛筆一本、小さなおはじきにいたるまで、持ち物のひとつひとつに名前が刻まれていく。作業をする母親の横で「直子」は泣いて大暴れした。しまいには「いるだけ邪魔だ」と、父親とともに祖父母の家に追いやられてしまった。
入学式に着たグレーのワンピースは、デパートで一目惚れしたお気に入りで、着るのをずっと楽しみにしていたのに、胸元につけられた「よしむらなおこ」の名札で台無しになってしまった。だから、その日の写真の「直子」は、すべてムッとした表情をしている。
大きくなるにつれ、それは仕方のないことで、誰も気にしてなんかいない些細なことなんだと分かるようになった。けれど、それは頭の中だけのことで、心の中の「直子」はずっと首を傾げたままだった。
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