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「なに?」
そう聞くと、大きな目が溶けるように、ふにゃりと歪んで笑みを作った。ピンクのシャボン玉が弾けるイメージが「直子」の脳裏をよぎる。
「ことり同盟」
「え?」
「ことり同盟、じゃない? あたしたち」
どういう意味かと問い掛ける前に「美香子」が言った。
「ねえ、ナオ」
しょきん。
忘れかけていた音が聞こえた。祖母の裁ちバサミの音。小さいころ、聞かせてと何度も何度もせがんだあの音。鋭く、高く澄んだ勝利宣言。
「そうだね、ミカ」
しょきん。
もう一度。今度は私が鳴らした音。
早く並びなさいという教師の声に、二人は立ち上がると、小走りに廊下へ向かった。ずっとくっついていた余分なものが取り去られたナオの足は、驚くほどに軽かった。どこへでも行ける、何だってできる。そう思わせてくれるくらいに。
ナオとミカ。「ことり同盟」。それは、世界に二人だけの、特別な絆。
その日の帰り道、ナオは百円ショップで小さな赤い持ち手のハサミを買った。祖母の裁ちバサミとは違うけれど、いつでもあの音を思い出せるように。
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