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 朔矢は、一ヶ月前にできたばかりのナオの彼氏だ。隣のクラスの男子で、バスケ部に所属している。背も高いし顔も悪くない。クラスの中心人物、とまではいかないけれども、ヒエラルキーの上に近いところにいるタイプ。ナオと付き合っている今でも、朔矢を狙っている女子が何人かいるのだと、この前ミカから聞かされた。  入学してしばらくたったある日、二人で廊下を歩いているときに「おー、林じゃん。久し振り」と話し掛けてきたのが、朔矢だった。聞けば、二人は同じ中学校出身で、わざわざ声を掛けてくるくらいだから、さぞかし仲がいいんだろうなとナオは思ったのだが、その会話はどことなくぎこちなかった。 「仲いいんじゃないの?」  教室に戻ってからミカに聞くと、ミカは首を横に振った。 「そんなに話したことないよ。だいたい、同じクラスだったこともないし」  ふぅん、と流したが、もしかしたらあっちはミカのことが好きなのかもしれないなと思った。それは、ナオにとってなんとなく不愉快なことではあったが、どこか誇らしい気分でもあった。  ミカと一緒に何度か話しているうちに、三人はなんとなく仲よくなった。そして告白された。問題は、その相手がミカではなくナオだったこと。そして、それがミカの目の前で行われたということだった。  朔矢が「好きです、付き合ってください」というストレートな言葉をナオにぶつけたとき、誰よりも盛り上がったのはミカだった。 「すごーい! 二人ともお似合いだよー!」 「まじ? 林、分かってんじゃん」 「ねえ、ナオ」  期待に満ちたミカの目。その期待を裏切るなど、ナオにはできなかった。だからうなずいた。それ以外の選択肢なんて、ないのと同じだった。その結果、朔矢のガッツポーズ、ミカの拍手と歓声。そんなふうに、ひとつのカップルが誕生してしまった。
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