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「ナオ、なんか欲しいものあるの?」
急ごしらえの約束通り、放課後、ナオはミカと一緒に駅ビルの中をぶらぶらしていた。
「ううん、別にないけど」
「そうなの? なんだ。じゃあたまには朔矢くんとデートでもしたらいいのに」
朔矢とナオが付き合い始めてから、ミカはこんなふうに気を使うようになった。まるで、はいどうぞと差し出される供物のようで、ナオは寂しい気持ちになってしまう。
「いいの。買い物は女同士のほうが楽しいんだから。ほら、行こう」
適当に目についたショップに入って、服やアクセサリーを物色した。きらきらしたものに囲まれていると、なんとなく沈んでいた気持ちも浮上してくる。
「ナオには、こういうのも似合うんじゃない?」
ミカが選んでくれるものはどれも、ナオにとって少し可愛すぎる気がした。
白い小花が散りばめられているふわりとしたスカートや、ハートのモチーフが輝くペンダント、猫耳がついた黒いパーカー。勧められた手前、鏡の前であててみるが、そこに映る姿は、まるではめ込み画像みたいだ。
「こういうのが似合うのはミカでしょ」
「そう? 私はナオのほうが似合うと思うんだけどな」
ひょいっと手に取って、ミカが自分の体にあててみる。すると、ナオにとっては違和感の塊でしかなかったものたちが、とたんに息を吹き返したように、生き生きとし始める。
「やっぱりミカのほうがいいって」
「そんなことないってば」
所狭しと陳列された服の間をすり抜けるようにして歩くミカの後ろを、ナオがついて歩く。入学式の日、大きすぎるように見えたブレザーも、今では、まるでそのまま生まれてきたんじゃないかと思うほどにミカの背中に馴染んでいた。
このブレザーを着られる時間はあと一年とちょっと。
一日が終わるたび、ナオはいつも少しだけ憂鬱になる。その一年とちょっとが終わったら、見えない手が、勝手に見えないピリオドを打ちにくる。
どうして、ずっとこのままじゃいられないんだろう。
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