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 視線を窓の外へ向ける。この間の席替えで、ナオの居場所は窓際になった。春には桜のピンクでいっぱいになるグラウンドは今、冬の到来を待つ灰色の寒々しい景色へと移り変わっていた。暖房のきいた教室にいると、なんだか画面の向こうの世界のようで、ひどく現実味がない。  しょきん。  しょきん。  ナオは、ハサミの奏でる音が好きだった。  「しょ」の音で、極限まで薄く、ぞりぞりと空気を削いで、「きん」の音で完全に断ち切る。何も切っていないのに、確かに何かを断ち切った鋭い音。小さいころからそんな矛盾に満ちた音が大好きだった。  なかでも一番好きだったのは、かつて祖母が使っていた裁ちバサミの音だ。  持ち手まで金属でできていて、ずしりと重く、刃の部分が長いので「しょ」の音も長かった。普通のハサミが「しょきん」なら、その裁ちバサミは「しょぉーっきんっ」だった。  そして「きん」の音もずっと清々しく澄んでいた。傲慢にも、切られるわけがないと高をくくっていた空気に対する、高らかな勝利宣言。その音を聞くたびにナオの背筋はぞくぞくした。  危ないから、と幼いナオはあまり触らせてもらえなかったが、今は老人ホームにいる祖母も、危ないからと刃物は持たせてもらえないらしい。あの裁ちバサミはどこへ行ったんだろう。
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