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5
早朝の冷え切った教室が好きで、ナオはいつも早く家を出る。
登校している生徒はまだ数人しかいなくて、寝不足なのか机に突っ伏して寝ていたり、鞄を置くなり違うクラスに遊びに行ったり、イヤホンを耳に突っ込んでスマホをいじっていたりと、みんなそれぞれ、好きなように過ごしている。そんなふうに小さく区切られた世界がぽつん、ぽつんと点在している感じも好きだった。
手首をくるりと一周する少し冷たい感触に、思わず顔がにやけてしまう。カーディガンの上から指先で触れて、何度もそこにあることを確かめた。
廊下からキュッキュッと靴の鳴る音が聞こえた。きっとミカだ。ミカも、電車の関係で、みんなより早く登校する。
「おはよう、ナオ」
予想通り、ピンクとホワイトのマフラーを巻いたミカが現れる。鼻先を赤くして、にこりと笑うその姿に、ナオは今日も嬉しくなる。
「寒いねー」
手を擦り合わせながら、ナオの席――というより、窓際に設置された暖房に歩み寄る。
ついさっき始動したばかりの暖房は、のろのろと生温かい息を吐きだしていた。この息が教室を暖め終えるころ、教室は生徒たちでいっぱいになって騒がしくなる。今、世界を小さく区切っている透明な壁はさぁっと消えて、机に突っ伏した生徒も他のクラスに遊びにいく生徒もイヤホンを耳に突っ込んだ生徒もみんな一緒くたにされて、クラスメイトという言葉に溶けてしまう。
ときどき、ナオは勢いよく窓を開けてみたくなる。
木々の葉を落とし、景色を灰色に染める冷たい風が、生温く暖まった教室を吹き抜けたら、きっと気分がスッとするだろう。
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