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「――来年は、お前たちも受験生だ。今一度、気を引き締めて学生生活をおくるように」  教師がようやく締めの言葉を口にすると、教室のあちらこちらから「はーい」「分かりましたー」と従順な声が上がる。これ以上長引いたらたまらない。  起立、礼、を済ませたとたん、机や椅子が鳴って、教室は一気に騒がしくなる。 「長かったー。ありえなくない?」 「もう電車間に合わないじゃん。まじ終わった」  そんなざわめきの中で、ナオはもう一度、しょきん、とハサミを鳴らしてからペンケースにしまって、リュックに突っ込んだ。 「ナオ、一緒に帰ろう」  そう声を掛けてきたのは、ピンクとホワイトのツートンカラーのマフラーをぐるぐる巻いたミカ。  このあいだ、短く切りすぎたと嘆いていた前髪を指先で摘まんで引っ張りながら、にこりと笑った。その笑顔を見ると、ナオはいつも嬉しくてたまらなくなる。 「長かったね。一生帰れないんじゃないかって思った」 「まさか」  席を立つと、ナオは赤いチェックのマフラーを、ミカと同じようにぐるぐると首に巻き付けた。紺色のブレザーと、その下に着たカーディガン、それにマフラー。防寒という観点からはひどく頼りない装備だ。けれど、たった三年しか着られない制服を、コートなんて無粋なもので覆い隠すなんてもったいない。寒さに耐えることも、おしゃれの一つだ。 「あ、もしかして朔矢(さくや)くんと帰る?」 「ううん、今日は部活だって」 「そっか。じゃあ遠慮なく一緒に帰れるね」  遠慮なんかしなくていいよ。口から出そうになった言葉を、ナオはすんでのところで飲み込んだ。そして、その後に続く言葉を胸の内で呟く。もしも、私と一緒にいられる権利があるのだとしたら、それは一番にミカにあげるんだから。
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