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「じゃあ、また明日ね」  ナオは手を振って、改札に吸い込まれていくミカを見送った。駆けていくミカの背中でパステルブルーのリュックが揺れ、首に巻かれたマフラーのピンクも、ぽんぽんと弾んでいるみたいだった。  ミカの後ろ姿が見えなくなっても、ナオはその場から動かなかった。人が行き交う駅の構内で、ミカの名残を探すように視線を巡らせる。  もう少し一緒にいたかったな。ナオがため息をついたとき、 「あれー、何やってんの?」  という声が聞こえた。振り返ると、ナオと同じ制服を着た女子集団がこちらを見ていた。ナオは無意識に半歩、後ずさる。 「まさか寒くて固まってるとかー?」 「そんなわけないっしょ」 「うちら、駅ビルのショップにコスメ買いに来たんだ。あと、じゃーん! ヘアカラーも買ったの。この色よくない?」 「バスでしょ? うちらも、もう帰るから一緒に行こうよ」  この女子集団は全員、ナオと同じ中学の出身で、受験するときには「みんなで合格しようね」と約束し合った『親友』たちだ。けれど、今のナオにとってその友情は、もう微妙にかたちを変えてしまっていた。 「うん、行こ」  けれど、どうせバスで一緒になるのだから、とナオはその集団に紛れ込んだ。強い風が吹くと、 「うわ、まじで寒ーい」  誰かが大声を上げた。ありえない、やばい、なんてきゃあきゃあと騒ぐ集団を、スーツを着た中年男性が、すれ違いざまにぎろりとにらみつける。 「はあ? なにあのおっさん。ダッサ」 「感じ悪っ」 「ねー、それよりなんか肉まんとか食べたくない?」  誰かの言葉に、食べたーい、あたしもそう思ってた、まだ時間あるしね、と続く。ナオも、本当は食べたいわけではなかったが、わかるー、寒いもんね! と賛同した。  今、空気は吸うためのものじゃない。読まなくちゃいけないもの。
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