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 しょきん。  赤い持ち手の小さなハサミを閉じると、そんな音がした。  ナオがいる教室の空気は、どんよりと淀んでいた。教師は教卓で熱弁をふるい、生徒たちはげんなりとした顔でうつむいている。ナオの右手から放たれた音になど、誰一人気付かない。  帰りのホームルームは、すでにいつもより十五分も長引いていた。隣のクラスの男子生徒が万引きで捕まって、停学処分を受けたせいだ。今ここにいない人間が犯した過ちについて説教されるという、生徒からしてみれば、なんとも無駄な時間が延々と続いている。 「いいか。たった一度、魔が差してしまっただけで、人生なんて台無しになってしまうんだ」  教師のほうも、さっきから同じような意味合いの台詞を繰り返してばかりだ。  先生もきっとネタ切れなんだろうな、とナオは思った。真面目な学生生活を経て、高校教師というちゃんとした職業に就いている人。魔が差して人生台無しになった経験なんか持ち合わせていないんだから。  仕事だから仕方なく説教している先生と、学生だから仕方なく説教されている私たち。お互いに妥協し合ったこの時間のゴールは、いったいどこにあるんだろう。誰かが突然立ち上がって、涙でも流しながら「先生! 僕たちはそんなことしません。信じてください!」とか言ってくれればいいのに。自分がその「誰か」になるつもりは、絶対にないけれど。  左手で頬杖をつき、右手でハサミを鳴らしながら、ナオはぼんやりとそんなことを考えていた。
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