小鬼の瓶

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「太一、この瓶はおじいちゃんの宝物だよ」  生前、祖父はそう言っていたが、どうしてこんな物が宝物なのか僕は疑問に思っていた。  祖父の葬儀の為、両親の生まれ故郷に来た。昨年祖母が亡くなり、後を追うように祖父も亡くなった。  葬儀も終わり、今日午後の便で東京へ帰る。両親は親戚へ挨拶に行っているので、僕は一人、祖父の家で留守番をしていた。祖父から引き継ぐ者が決まっていないこの家は、来月取り壊されるらしい。  アブラゼミともミンミンゼミとも違うセミの鳴き声が響く。夏の焼けるような日射しの中を一人の老人が訪ねてきた。  老人が仏壇に手を合わせ終えたところで、氷の入ったさんぴん茶を差し出す。ここに来るまで相当暑かったのだろう。老人は豪快に飲み干した。  この老人は、仲村渠(なかんだかり) 多助(たすけ)さんというそうだ。東京では聞いたことのない苗字。沖縄に限らず、地方には独特の苗字の人がいる。  なかん…、えっと、多助さんは2つの瓶を持ってきた。1つは、船の入った瓶。太くて短いずんぐりとした透明なガラス瓶。バラバラにした船の模型を、ピンセットを使って瓶の中で組み立てたもの。  この船の入った瓶こそ、多助さんが祖父の知り合いだったという証。まったく同じものが仏壇に置いてある。昔、祖父の友人が同じものを二つ作り、一つを貰い受けたのだと聞かされている。それが、祖父の宝物だ。  問題なのは多助さんの持ってきたもうひとつの瓶。それは目を疑う物。同じような瓶だが、中に入っているのは船ではない。 「おいらが、お前の願いを1つ叶えてやる」  真っ赤な身体にモジャモジャの髪。そのてっぺんには角。堂々としゃべっているが、その小ささでは威圧感より滑稽さと可愛らしさを感じる。瓶の中にあるのは、いや、瓶の中にいるのは小さな鬼。
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