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「本日から貴方の担当になりました。久光恋鐘です。よろしくお願いします」
「……恋鐘?」
目の前がえらく輝いて見えました。私の暗すぎる日々には、その存在がある意味受け入れがたかったのかもしれません。しかし、その名を聞き、記憶を掘り起こす中で私は、彼女を段々と認識していきました。
そして、気が付けば涙で瞳を濡らしながら、笑顔になっていました。この、夕陽に照らされる温もりのような感情を抱いたのは何時ぶりでしょうか?
「大きくなったね、恋鐘」
「……ごめんなさい。覚えてないんです」
表情一つ変えず、彼女は資料に目を通し始めた。それもそうよね。だって、あなたが私と最後に会ったのは、生まれてすぐだったんだから。
「久光京子さん、この地球上で最後の『愛』を持った人間。担当は変わってもやることは同じです。私は貴方を観察し、『愛』を記録するために来ました」
背筋を伸ばして、そう言い放った彼女だが、その羽織った白衣は大きすぎて、大きな瞳が愛しくて、少し頑張って発音したイントネーションもまだ幼い。
そうだよね。まだそんなに時間がたったわけじゃないんだから。この子はまだ子供。
「とりあえず、お母さんとでも呼んでおきましょうか。どうやらその方が効率はいいらしいので」
「……うん」
あぁ、涙が流れていく。彼女はそれを丁寧に記録している。
やっぱり、この子にも受け継がれなかったんだなぁ。
ごめんね。恋鐘。
貴方が今、目にしているのが。この涙が『愛』なんだ。
ごめんね。わからないよね。なんで泣いているのかわからないから記録してるんだよね。
「おかえりなさい、恋鐘」
「……?」
私の言葉に彼女は手を止めて、目線を合わせてきた。目を細めると、また紙に目を落として、メモを書く。
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