そうじの時間になりました。

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 ***  掃除は、感謝を伝えること。  彼女のこの時の言葉を、俺は今でも忘れていない。相変わらず掃除は苦手だし、要領が悪くて叱られてばかりであるのは確かだけれど。それでも、何かが綺麗になるというのは達成感がある。気分も良い。素直になれない俺が何かに対して感謝できる手段があるというのなら、それは十分実行するに値するというものである。  だから、自分の子供達にもきちんと掃除できる人間になって欲しいと思うのだ。こういう、ダメダメな子供時代を過ごした親を反面教師にして――。 「やっべ、今読んでも面白いわこの漫画」 「パパ、何それー?」 「見ろよ麻早人(まさと)、これこれ!パパが子供の頃好きだった漫画!押入れのこんなとこにしまってあると思わなくてさあ、読んでみろよ面白いから!超絶オススメ!」  残念ながら、気が散りやすいのは子供の頃から変わらないわけで。家の押入れの掃除を息子としながら、ついつい雑談したり漫画読んだりしちゃうのは相変わらずなわけでして。そのたびに今も、昔と変わらずお叱りが飛ぶのである。 「ちょっとー朝人さん?まーくんと漫画読んでないでちゃんとお掃除してね?」 「スミマセン!」  キッチンの掃除をしていた麻土香が、怖い顔でこちらを睨んでいる。冷や汗をかいて頭を下げた俺を真似して、麻早人がぺこぺこと頭を下げていた。反面教師どころか、悪いところを全力で学ばせてしまっている気がしないでもない。  まあ、それはさておき。  あれから二十年ばかり過ぎた今、麻土香は自分の大切な家族として俺の隣にいるのである。  掃除と悪ふざけが結んでくれた縁は、まだまだ途切れることなく続いていきそうだ。 『掃除の時間になりました。皆さん、今日も頑張って教室を綺麗にしましょう』
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