そうじの時間になりました。

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そうじの時間になりました。

 これは、俺がまだ小学生だった時のこと。  男子小学生と一言で言ってもいろんな奴がいるだろうが、中でも俺は“悪ガキ”“クソガキ”と呼ばれる類の人間だった。授業でも休み時間でもふざけて先生を困らせるし、廊下は当然のごとく走るし、消火器をイタズラしてブチまけたりボール投げしてガラス割ったり女の子を泣かせたり入っちゃいけない屋上に入ったりとまあやりたい放題だったわけだ。  そんな俺が、ある意味一番嫌いな時間がコレ。 『掃除の時間になりました。皆さん、今日も頑張って教室を綺麗にしましょう』  音楽とともに、こんなかんじで放送室からアナウンスが流れるアレ。授業後の、掃除の時間である。  正直、これが本気で好きな低学年の男子が何人いるだろうかという話だ。好きだと言えるのはよほど真面目で綺麗好きな男子か、あるいは最初からまともに掃除する気もなくて遊ぶ気マンマンの奴かのどっちかだろう。俺も、掃除は大嫌いだった。だからいつも室内を掃き掃除する箒を持ち出しては、クラスメートの男子達とふざけあって遊んでたわけだ。  ほら、剣に見立てて殺陣っぽいのを演じてみたり、あるいは跨って“魔法使いだぜ~”とかやってみたり。あれ、今の小学生はやらない?俺達だけ?  まあ、そんなおバカな男子を、当然ほっておかないやつはいる。 「あんた達、いい加減にしなよ!マジメにおそうじやって!」  学級委員タイプ、の真面目系女子だ。  そのクラスにもまさにそういう女の子がいた。名前は藤井麻土香(ふじいまどか)。小学生低学年くらいだとありがちなことで、女子の方がずっと背が大きかったりもするし、あと大人びていたりもする。麻土香はまさにその典型で、俺よりずっと背が高くて見下ろされるのが不愉快だった。まあ、美人と言えば美人だったけれど、いつも怒ったように俺に接してくるせいであまり良い印象はなかったのである。  笑えば可愛いのかもしれないのに、俺に対してはちっとも笑わない。まあ俺がふざけたことばっかりやっていたから、というのもあったのだと今ならわかるけど。彼女はまるで目の敵にでもするように、俺のことばっかり叱るのが嫌だったのだ。ふざけて遊んでいたのは、何も俺一人だけではないというのに。 「アンタタチ~イイカゲンニシナヨ!マジメニオソウジヤッテ~!」  俺は裏声を使って、彼女の声真似をしてからかった。他の男子達は“わりと似てるんじゃね!?”とゲラゲラ笑っている。当然面白くないのは麻土香だろう。ぷくー、っと頬を膨らませて、“だから!”と繰り返した。
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